■単独では繁殖できない「南高梅」
小学校の頃にアサガオやヒマワリを育てた経験を多くの人はお持ちでしょう。種を土に植えると芽を出し、大きくなって種や実をつける。植物と言えば普通
こういう姿を想像します。しかし純粋な「南高梅」という品種は種から生まれません。では何から生まれるのか、と疑問を持つと思いますが、これは「生まれる」ではなく「継いでいく」という言葉で説明できるのです。
南高梅の梅の実を土に植え、芽が出て大きくなったとしたら、それは「南高梅」の木になると思いますか?多くの方はYesと言われると思いますが、実は一般
的に言われている「南高梅」は、その方法ではできません。「接ぎ木」と言われる手法を使い「増殖」していくのです。近年クローンという言葉がよく使われます。同じ生物から取った遺伝子を使い、同じ遺伝子を持った生き物を作り出す。この方法を研究室ではなく、畑で行うのが「接ぎ木」という作業です。具体的には、 |
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少し大きくなった梅の木(台木)を根元から切る。 |
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そこに切り込みを入れて南高梅の枝(約1センチ程度に切る)を差し込む。 |
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そこから芽が出るのを待ち、元の切り株から出る芽はすべて取り除く。 |
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この作業を経て、初めて「南高梅」と呼べる木が誕生します。 |
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なぜこのような面倒な方法を行うのかと言うと、植物も人間も生き物は子孫を残して行く課程で様々な「進化」や「変化」を行います。我々人間も猿から進化したと言われていますが「品種を守る」という立場においてはこの「進化・変化」は起こっては困るものです。これを起こさないようにするには子孫を「生む」のではなく、同じ性質を持つ同類を「増やす」必要があります。その手法が「接ぎ木」で、これを行うことにより遺伝子レベルで元の「南高梅」の性質を純粋に継いでくれるようになるのです。 |
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■70年前の「南高梅の木」
少し難しい話になりましたが、これらの作業を行う為にはある大前提が必要になります。それは「純粋な南高梅の木」が必要になるということです。「接ぎ木」した木からまた「接ぎ木」をする。という繰り返しでは、いずれ変化が起こります。それでは「接ぎ木」の意味がありません。ではどうすれば変化を極力抑えて「南高梅」を増やせるか。それは原点(一番最初)の「純粋な南高梅の木」を使うことです。新たに南高梅の木を植えるときは、この「純粋な南高梅の木」から「接ぎ木」を行い、その基となる台木も「純粋な南高梅の木」を使えば品種を維持することができるという考えに基づいて、うめ21研究センターでは昭和6年に誕生したほぼ純粋な南高梅の木を10本所有し、大切に管理しています。70年という歳月を経た今でもこの南高梅の木はたわわに梅の実を実らせます。例えどこかで「南高梅」からはずれた梅の実を付けない梅の木(変種)が誕生しても、この「純粋な南高梅の木」があれば、また豊作で味の良い「南高梅」の木を生むことができるというわけです。 |
70年の歴史を持つ南高梅の木 |
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■過去を守り、未来を築く「うめ21研究センター」
この「守る」という取り組みと同時にうめ21研究センターではより良い梅の木を作り出すための「改良」も行われています。もっと病気に強く、豊作で、味も良く、育てやすい梅の木が出来ればどうでしょうか。新・南高梅とでも呼べるものが誕生すれば、それは素晴らしいことです。うめ21研究センターは「品種を守る」「品種を作り出す」という2つの大きなテーマを持っています。その2つに共通
するのは「南部川村(現代のみなべ町)の財産を守っていく」ということです。これは試験管とコンピューターで行えば済む研究ではありません。人間が畑で長い年月をかけて取り組まなければ、不可能な研究なのです。梅の郷が生まれた時から現代に至るまでの道のりは、全て手作業の歴史です。梅は生き物であり、計算や理屈では割り切れないものなのです。言葉では何も教えてくれない梅の木ですが、数多くの人間の手により努力と愛情を注がれた結果
「梅の郷・南部川村」という素晴らしい財産を築き上げることができました。これからもうめ21研究センターは、梅と人間の関係を保つための橋渡しとなり「梅の郷・みなべ町」を守ってくれることでしょう。 |